crazy for you

4/17

1809人が本棚に入れています
本棚に追加
/350ページ
緩みそうになる頬を、意識して引き締める。 「早めにでて、ゆっくり行こうぜ。」 軽く熱を持ち始めた身体から腕を放して、食卓について篠田を手招きする。 何処と無く肩透かしを喰ったような顔をしてたちつくす男に笑いかけて、箸を手にした。 免許を取りたてで、毎週のように長距離を運転していた篠田の運転は上手くて、ドライブは快適だった。 色づき始めた山並みは、目を楽しませ。 暖房を効かせた車内に入り込む冷たい風は、短い秋の終わりを予感させた。 予定より一時間ほど早くついた宿は、予想よりずっと静かで。 一棟づつが別棟で建てられていて、部屋ごとに風呂から食事までがついた豪華なものだった。 中居さんが席を外した後、二十畳近くある座敷に寝転んで、伸びをする。 畳の青い匂いと、窓から見える紅葉。 広い畳の上で、先ほど二人で見た紅葉を思い出す。 予定していた公園より足をのばしてみた散策路の先の小さな神社の一角に、それはあった。 楕円に切り取られたように木が輪を作り。 ちょうど、人が一人寝転べる位のスペースに降り積もった落ち葉のベッド。 思わずコロリと寝転んで、見上げた光景に息を飲んだ。 真っ青な空の青に、丸く額縁の様に円を描く赤や黄色の紅葉。
/350ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1809人が本棚に入れています
本棚に追加