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風が吹く度にハラハラと降り積もり、世界を染める沢山の色たち。
「綺麗だな。」
無意識に口からこぼれた言葉に、隣に寝転んだ篠田が頷く音が、カサリと響いた。
秋って、こんなに綺麗だったっけ?
ふと、頭に浮かんだ疑問に、デジャウを感じる。
そういえば。今年の夏に見た花火にも、同じように感じたっけ。
毎年見ていたはずなのに。
篠田と二人で大騒ぎして着た、浴衣で出掛けた花火大会。
空に浮かんでは消える大輪の花に、目を奪われて。
いつの間にか、目尻に浮かんでいた涙をバレないようにコッソリ拭いた。
篠田と並んでみる世界は美しくて。
何気ない日常の中に、突然現れるその瞬間にいつも圧倒される。
自分が篠田から与えられている幸福と同じだけの幸せをかえせているだろうか?
そう考えると、この幸福は切なく。
言葉で問うて答えを貰っても、この気持ちは決して消えない。
「どうした?」
物思いに耽っていた俺に気付いた篠田が心配げにのぞきこんできた。
この男はいつもそうだ。
いつでも、どんな時でも。
息をするように、俺を優先する。
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