1809人が本棚に入れています
本棚に追加
/350ページ
篠田の大きな手が伸びてきて、ギュッと抱き締められた。
広い胸の中は篠田の匂いがして、身体からホッと力が抜ける。
付き合い初めは、抱き締められると、ただただ胸が高鳴ったが。
最近では、この暖かい腕に包まれると、子供のように安心する。
篠田の胸に耳をつけて、柔らかく命を刻む音に耳を澄ました。
窓の外から聞こえてくる葉っぱが揺れる音と、篠田の心音。
静かな世界で、ただ篠田と二人きりだ。
せっかく遠出するのだからと、色々と宿から出掛ける計画も立てていたが、このままユックリ二人で過ごすのもいいかもしれない。
篠田の口づけを受けながら、穏やかな気持ちでそう思った。
「風呂に入る?」
唇が離れた瞬間を狙って、篠田の首に腕をまわし甘えるように訊ねる。
正直、恥ずかしいが。この男は自分に甘えられる事を驚くほど喜ぶ。
案の定、満面の笑みを浮かべて抱えあげられた。
大股で部屋から繋がる露天風呂に向かう上機嫌な篠田に思わず笑う。
分かりやすく気分をあげた男に、寄りかかり大人しく運ばれた。
ベランダに造られた小振りな露天は、それでも二人で入るには充分広くて。
かけ流しで一日中いつでも入れる風呂は満々と湯を湛えていて、浮かんだ落ち葉がクルクルと円を描いていた。
最初のコメントを投稿しよう!