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「、、、篠田?」
脱衣場で俺を下ろした篠田が、そのまま洋服に手をかけたのを見て、Tシャツを引っ張り諌める。
「手。あげて?」
上から目を合わせながら、可愛らしく首をかしげられて、グッと息をのむ。
可愛くはない。
決して可愛くはないはずなのに、遊びをせがむ子犬のようで逆らえない。
仕方なく、万才をするようにあげた腕から洋服がすり抜けて、脱衣かごに投げ入れられた。
そのままズボンのチャックにのびてきた手から、今度こそ身を翻して、篠田に背を向ける。
「後は、自分で脱ぐ!」
勢いをつけて宣言して、篠田に反論する隙を与えずにサッサと脱いで風呂に入った。
少し熱い湯と、冷たい風が気持ちよく。
湯船に浸かりながら、目を瞑った。
まだ、少し頬が熱いが。
風呂に浸かったせいだと、言えなくもないだろう。
誰にともなく、そんな言い訳を心中で呟いた時、水音がして篠田が入ってきた。
目線があうと、嬉しそうに笑って隣に座った。
広々とした湯船に並んで座って、空を見上げる。
夏の青さとはまた違う柔らかい空に、薄くのびる羊雲。
何もかもが穏やかで、冷たい空気を吸い込んで深呼吸する。
こんな風に落ち着いた気持ちで、コイツの隣にずっといられたらいいのに。
横に座る篠田を盗み見て、背伸びした。
伸ばした腰に腕をまわされて、一瞬ビクリとしたが、それ以上の意図はないようなので大人しく膝の間に引き寄せられる。
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