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だから。気が付かなかった。
ただ欲しくて。
なにも考えずに欲望のままに伸ばした手を、思いがけず湊が掴んでくれて。
生まれて初めて人と深く関わって、やっと気づいた己の異常に。
俺と湊とは、違う。
ただバスケと湊さえいれば生きていける自分と違って、湊には大事なものが沢山ある。
恋愛に関してもそうだ。
湊以外に本気になれなかった自分と違って、湊は学生の時の彼女もそれは大事にしていた。
寄ってくるものを、ただ拒まなかっただけの自分とは違う。
男相手の恋愛など、考えもしなかったであろう湊の身体を無理矢理奪って手に入れた。
いつか湊が女を好きになったら、自分はきっと湊を壊してしまう。
愛する湊の幸せを祈って、身を引くことなど考えられない。
相手の女から遠ざけて。二度と外に出られないようにして、抱きつぶしてしまうだろう。
湊が女だったなら、自分の狂気はまだ抑えられたのだろうか?
婚姻の名のもとに、法律的にも社会的にも湊を自分に縛り付けて、身動きとれないようにしてしまえたら?
頭をもたげる馬鹿げた妄想に、首をふる。
湊が好きだ。
何物にも屈せず、常に自分に誇り高く生きているあの魂に焦がれる。
どこか壊れた自分とちがって、まっすぐな木のように素直でのびやかな生命。
だから、せめてもの想いを込めて。
湊の身体に、己を刻みこむように抱く。
何もかも忘れさせて、せめて今だけでも自分の事しか考えられないように。
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