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目の前の珈琲が小さく波立って揺れている。
震源は、小さなカップにかけられた僕の指。
原因は、向かいの席に座った原西。
そして、その彼にハニカミながらチョコレートを渡す、最近入社したばかりの事務員。
どう見ても義理には見えない高級チョコ。
この日の為に気合いを入れた男性好みの控え目なネイルに、流行りのワンピース。
何時もは動きやすいように、高い位置で纏められた髪も、今日はクルリと巻かれてフンワリと優しく頬をつつんでいる。
薔薇色に頬を染めて、上目使いで差し出されたチョコレートを、優しく。けれどもキッパリと断る原西。
本日、三度目の光景だ。
いい加減、見慣れてきた光景に。原西の返す言葉まで予測できるというのに。
僕の横に腰を落とし、お待たせしました。と、彼が静かに告げるまで。内心穏やかではない。
僕の方が美しく。財力も智力もある。
夜。彼を満足させられるのも、きっと僕の方だ。
なのに、誰かがあの美しい男に気付く度に、焼きもちにも似た気持ちが沸き上がり制御できない。
この僕が。
誰かを手放したくないと、追いかけるだなんて。
今までの恋愛で感じた事のない焦りに、戸惑う。
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