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「どうされました?」
オフィシャルな顔で、僕をのぞきこんできた原西に、なんでもないよと微笑んで席を立った。
角を曲がると、思ったとおり後から追いかけてきた彼を捕まえて、掠めるようなキスをして手を放した。
そのまま足早に社長室に戻る。
全く僕らしくない。
策略ではなく、衝動で口づけるなんて。
しかも、子供のように唇をかすかに触れあわせただけ。
それだけで満足して、上機嫌になる自分を感じて。
余りにもらしくなくて、苦笑いがもれる。
三十路を過ぎての初恋なんて、目も当てられない。
鼻で笑って、馬鹿にさえしてきた恋愛小説のように。
小さな出来事に一喜一憂して、初めて感じる恋のトキメキに胸を踊らせているだなんて。
昔の恋人達が、今の僕をみたら唖然とした後、大笑いするに違いない。
引き出しから取り出した小さな箱を、テーブルに置いて指で弾く。
そういえば、必要もないものを。ただ贈りたいからという理由だけで購入したのも、これが初めてだ。
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