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聡司の相手として、社長室に残すはずだった原西の同行を、突然依頼した社長もグルだろう。
あの破天荒な伯父が、喜んで乗りそうな話だ。
暇人どもめ。
溜め息を付きながら、一旦クローゼットを閉めようと視線を戻すと、赤い薔薇の間に同じような色のカードが挟まっているのに気づいた。
取り上げると
本気の恋に落ちた事を、心よりお祝い申し上げます。
君の初めての相手より、愛を込めて。
追伸
たまには友人にも目を向けるように。
と、書かれていた。
茶化す気満々の悪戯に、頭痛がする。
原西の態度から、間違いなくこのメッセージは読まれているだろう。
扉を閉めながら、どうしたものかと頭を悩ましていると、原西が背後に立った。
そのまま顔を上にあげると、降りてきた唇に捕らえられる。
「ごめん。」
悪友の悪ふざけを謝罪すると、後ろから強く抱き締められた。
「アンタがアイツの所業を謝らんで下さい。
只でさえ、今の俺は嫉妬の塊なんですから。」
悔しげにつぶかれて、天を仰ぐ。
今までの悪行のツケを、支払わされたような気がする。
言葉で言いくるめるのは簡単だが、原西相手に嘘や偽りは言いたくなかった。
それが限りなくグレーで、真実ではなく嘘でもないような類いであっても。
この胸に燃える。初めてもった感情を汚すような事は、出来ればさけたい。
お世辞にも綺麗とはいえない過去をもった自分だが、原西には誠実でありたいと願う。
「呆れた?」
振りかえり見上げれば、首を横にふられた。
辛抱強い男だ。
果たして、反対の立場に立った時に、自分はこんなに落ち着いていられるだろうか。
喜多川君にだって、内心穏やかでなかったのに?
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