新堂さんの初恋

9/22
前へ
/350ページ
次へ
聡司の相手として、社長室に残すはずだった原西の同行を、突然依頼した社長もグルだろう。 あの破天荒な伯父が、喜んで乗りそうな話だ。 暇人どもめ。 溜め息を付きながら、一旦クローゼットを閉めようと視線を戻すと、赤い薔薇の間に同じような色のカードが挟まっているのに気づいた。 取り上げると 本気の恋に落ちた事を、心よりお祝い申し上げます。 君の初めての相手より、愛を込めて。 追伸  たまには友人にも目を向けるように。 と、書かれていた。 茶化す気満々の悪戯に、頭痛がする。 原西の態度から、間違いなくこのメッセージは読まれているだろう。 扉を閉めながら、どうしたものかと頭を悩ましていると、原西が背後に立った。 そのまま顔を上にあげると、降りてきた唇に捕らえられる。 「ごめん。」 悪友の悪ふざけを謝罪すると、後ろから強く抱き締められた。 「アンタがアイツの所業を謝らんで下さい。 只でさえ、今の俺は嫉妬の塊なんですから。」 悔しげにつぶかれて、天を仰ぐ。 今までの悪行のツケを、支払わされたような気がする。 言葉で言いくるめるのは簡単だが、原西相手に嘘や偽りは言いたくなかった。 それが限りなくグレーで、真実ではなく嘘でもないような類いであっても。 この胸に燃える。初めてもった感情を汚すような事は、出来ればさけたい。 お世辞にも綺麗とはいえない過去をもった自分だが、原西には誠実でありたいと願う。 「呆れた?」 振りかえり見上げれば、首を横にふられた。 辛抱強い男だ。 果たして、反対の立場に立った時に、自分はこんなに落ち着いていられるだろうか。 喜多川君にだって、内心穏やかでなかったのに?
/350ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1809人が本棚に入れています
本棚に追加