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贈られるはずだったチョコレートを。
最近、原西に対してあからさまな好意を寄せている女子社員達と、わざと接触させて。
試しただけでは、収まらなかった腹いせにワザワザ目の前で、開けて食べようとまでした心の狭い僕を、責めることもなく。
ただそれだけを呟いて、抱き締めてくれる恋人。
昔の僕なら、これだけが原因で別れていただろう幼い嫉妬。
出来すぎだ。
「君は僕を甘やかしすぎだと思う。」
只でさえ自分に甘い僕が、際限なく甘えてしまう。
寄りかかって呟けば、抱き締める力を強めてくれる。
「俺に出来るのは、それぐらいしかないですから。」
沈んだ声で返されて、いぶかしむ。
「職も、住む所までアンタに世話になっていて、経済的には甘えっぱなしです。」
考えてもなかった返答に虚をつかれた。
仕事は、確かに自分が社長だから世話をしているといえなくもないが、給料以上に働いてもらっているし、家に関しては社員寮だ。
しかも。目の届かない場所で、女でも連れ込まれてはという邪心から。マンションを買い取って、同じ建物内にすまわせたという思惑の結果だ。
原西は知らないが、実はエントランスの防犯カメラが自宅のTVにつながっている。
付き合う前、原西が一人で帰宅する姿を確認して、自分が胸を撫で下ろしていたことなど彼は知らないし言うつもりもない。
「転職したい?」
恐る恐る尋ねれば、首を振られてほっと息をはく。
「今より要と離れるなんて、心配で仕事になりません。」
返された甘い言葉に、曖昧に笑った。
「信用ないかもだけど、浮気とかしないよ?」
別に転職を進める訳ではないが、気になったので、言い訳してみる。
「要の事は、信用してます。
アンタの近くに寄ってくる他の男達を信用してないだけです。
何をしても手に入れたいという奴等の気持ちがわかりますから。」
深い溜め息とともに力なく告げられて、思わず口の端があがった。
「なんだか、告白されてるみたいだね。」
クルリと身を翻して、正面から向き合ってキスをする。
唇を離すと同時にチャイムの音がして、終業を告げた。
抱き締められる腕に力が入り、隙間もないほど密着して囁かれた。
「バレンタインデーですから。」
言いながら落とされたキスが熱くて、クラリとする。
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