新堂さんの初恋

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「肉体的にも、満足してるけど。」 多少、悪戯心を込めて見上げてみる。 「これからも精進させて頂きます。」 茶化すようにビジネスライクにかえされて、そのまま微笑まれた。 あまりに艶っぽく笑われて見とれる。 こんなに綺麗に笑う男だったろうか。 これは、危ない。 今まで、女子社員だけをチェックしていたが、男にも用心しなければ。 掌中の珠を奪われかねない。 格好だって、前はもっと野暮ったかったはずだ。 複雑な心境で、日々、磨かれていく男を見上げ、苦笑いをもらした。 今でさえ、夢中すぎて手を焼いているのに。 もっととキスをせがんだ唇をとめられて、腕を引かれた。 「家まで持ちそうもないので、ホテルを取らせていただいてもいいですか。」 腰を引かれて、真面目に口説かれて喉を鳴らして笑う。 「チョコレート、食べ損ねたね。」 了承の意を込めて大人しく恋人の腕の中に収まると、思案げに眉を寄せられた。そんな顔にまで煽られて、嫌になる。 どこまで自分を捕らえたら、この男は気がつくのか。 そのまま部屋を出るかと思った男は、受話器をとるとメンテナンスに電話してクローゼットの中の薔薇を処分するように伝えて、鼻をならした。 「渡しましたが、持ち帰らせるとは約束しませんでしたから。」
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