新堂さんの初恋

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「ホテルでも。 抑えが効かずにキスをして、家に帰る羽目になりましたし。」 その前に、存分に悪戯で追い詰めた僕を前に。たった一度の口づけを本気で悪いと思っている男が憐れになる。 僕は自分の性格を少し考え直してみたほうがいいかもしれない。 このまま原西が摂生して、本気で大人になってしまったら。 我慢のしすぎで病気になってしまいそうだ。 「社長になった男が、一番最初に叶える夢ってなにか知ってる?」 なにやら反省を繰り返している原西をのぞきこむ。 首を横にふるのを確認して、キスをした。 「年下の若い愛人を囲うこと、だよ。 君は、僕の我が儘を叶えてくれてる。 そのご褒美に、君がしたいと思うことを僕にしてもいいんだよ。」 抱きついて茶化してみると、苦笑いして靴を脱がされた。 そのまま抱えられてベットに運ばれながら、キスをせがむ。 原西は思い違いをしている。 年齢が枷になるのは、僕のほうだ。 今はまだ気にならなくても。あと10年もすれば、確実に僕の外見は衰える。 そうなった時。 僕はまだ、彼を惹き付けておけるだけの魅力を保っていられるだろうか? 10年はなんとかなっても、その先は? 年下の原西には、更に年下の求愛者がこれから現れるだろう。 その時に、年老いた僕が選ばれる保証はない。 其を考えると、とても怖い。 その時に、僕が持てるものは。二人で過ごした日々と、交わした愛の言葉だけだ。 原西だって、いつか気づく。 いつか、必ずくる未来を想像してフルリと震えた。 原西の手が、僕のスーツを脱がす間に恐ろしい想像から意識を引き剥がす。 この恋を終わらせたくない。 願うのはただ、それだけ。
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