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事情の余韻の残るベットの上で、原西が入れてくれた珈琲に手をのばす。
カップから甘い香りがして、顔をあげた。
「チョコレート・フレーバーの珈琲です。
香りだけで、甘くありませんから。」
サラリと言われて驚いた。
僕が甘いものが苦手なのを知るのは、家族とごく一部の友人だけだったから。
原西が気づいていたとは、思わなかった。
大人になって、一番ありがたかったのは、大人からやたらめったらに甘いものを渡されることがなくなったことだ。
食事にも、黙っていれば当然のようにデザートをつけられる。
そんな悪夢から解放されて、他人と食べる食事から苦痛がのぞかれたのは何時からだったか。
「美味しいね。」
口にした珈琲から、薫りだけのチョコを楽しんで微笑んだ。
チョコレートの薫りは、嫌いじゃない。
どこか甘くて、原西とのキスを思い出させる。
ただ、濃厚なチョコは、一つぶ食べればその後一年はいらないが。
「お口にあって、なによりです。」
何時もの調子をとりもどした恋人を横目に、熱い珈琲を味わう。
溶けるようなセックスに、熱い珈琲。
手放せない恋人まで揃った、完璧なバレンタイン。
この幸せを手放さないように。
できうる限りの手を尽くそう。
そう胸に誓いをたてて、甘い薫りの熱い口づけを贈った。
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