新堂さんの初恋

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電話の向こうでなにかを迷ったような気配がして、耳をすませたが。かえされた要からの返事はそっけないもので。 これから暫くは声も聞けないというのに、なんの未練もなく電話は切れた。 耳に響く電子音にため息をおとす。 思っていたより、ずっと本気だったらしい自分の要への想いに。深く椅子に座り直した。 今はまだ、あの小僧に夢中だとしても。 何年も要を惹き付けておけるだけの魅力があるとは、とても思えない。 要の興味が他に移ったときの原西を想像して憐れに思う。 それなら、今。要を独占する幸せに酔う馬鹿な男の邪魔立てすることもないだろう。 己の気持ちを自覚したなら、やるべきことは一つだ。 爪を研ぎ、力を貯めて。 来るべき時に向けて策略を練る。 今までのどんなゲームより面白い。本気の狩だ。 ほくそ笑んだ聡司は、上機嫌で夜の街へと繰り出していった。 その頃。 身勝手な妄想に微笑む聡司の姿を、安易に想像できて。 重いため息を要がついたことは、誰も知らない秘密。
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