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何でもないことのように要は話すが、それでいくと要など、格好のターゲットということになる。
思わず眉間に寄せた皺を、優しく指先で撫でられる。
「僕らは慣れてるから。
かわしかたもそれなりに鍛えられてるから大丈夫なんだけど。
僕のビジネスパートナーとして紹介したら、君にも白羽の矢がたちかねないのがね。」
要の言葉に、まさかと笑って
「俺はただの従業員ですから。」
見返した先の真剣な表情を見て、口をつぐんだ。
「クリスマスはね、身内が集まる一番フランクな会でね。
婚約発表前のパートナーも、同伴可能なんだ。
で。
今回、兄さんが僕らの衣装を揃えたのは、谷のオジサマの店でしょう?
彼は、僕の父親の花婿衣装を作った人でね。
さっき見た衣装は、当時の父のスーツを原型に作られてた。」
物憂げに髪先を弄びながら、要が呟くように告げた内容に、目を見張る。
父親の花婿衣装を真似た揃いのスーツで出席すれば、二人がそういう関係だと声高に叫ぶようなものではないだろうか。
なにも考えずに、透に任せた事を今更ながら後悔した。
自分はともかく、要を不利な立場に追いやる訳にはいかない。
「君を皆に紹介したいと思ったのは僕だ。
兄さんは、中途半端に御披露目するくらいなら、最初から宣戦布告して敵味方を見分けろって言ってるんだと思う。」
開こうとした口に、そっと置かれた人指し指で鍵を掛けられた。
「今度のパーティーで、君はよくよく気を付けないといけない。
危ないから、正規のスタッフ以外から飲食物を受け取っちゃだめだよ?
単に危害を加えようとする輩もいるし。
公私ともに。僕のパートナーであると公表したも同然の君を手にすれば、新堂に対抗できると考える人間がでてもおかしくないもの。」
「俺をどうにかしても、得になるとはおもえませんが。」
なかば呆れてかえせば、さびしげに微笑まれた。
「普通なら、ね。
彼らにとって、君はカードだ。
僕と公式に付き合った、最初の人間としての価値をもってる。
付き合い続ければ、新堂とのパイプができたことになるし。
別れれば、君を引き取ったという恩を僕にうれる。」
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