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いいながら、胸元に顔を埋めた要がため息をついた。
「君を僕の家族に紹介したいのは、僕の我が儘だ。
僕が生きてきた世界を、君にも見てもらいたい。
できれば、これから一緒に同じ道を生きて欲しいと思ってる。
それが、必ずしも君にとっての幸福ではないとしても。」
伏せられた瞼が震えている。
正直いって、要の語る世界はいつも別世界で、ドレスコードさえ理解していない自分は要の御荷物にしかならないかもしれない。
それでも、自分が側にいることを望んでくれるなら、その希望に答えられる男になりたいと思う。
「アンタは、俺をわかってないです。」
伏せられた顔を引き寄せて、深く口づけた。
この胸に溢れる想いが、少しでも合わさった唇から伝わるように祈りながら。
「要の側にいることが、俺の幸福です。
アンタが望む限り、側にいます。」
見つめた瞳が揺れている。
こんなに弱気な要は見た事がない。
抱き寄せて髪を撫でれば、小さく笑われてすりよられた。
「僕が望まなくなったら?」
甘い口調で、冷たい問いを口にのせる恋人に微笑む。
何時もの調子を取り戻した要に、安心する。
「要の望まない事はしませんが、正直思い付きませんね。
ただ、要と別れて生きていける気がしません。」
そうなったら、きっと呼吸さえできない。
この胸は鼓動を打つことを拒否し、世界は音を無くすだろう。
脱け殻になった自分は簡単に想像がつくが、要の目にそうなった自分は決して触れさせることはないだろう。
手放されたとはいえ、想い出の中でくらい要に愛された姿のままでいたい。
黙って姿を消し、ただ一人で命が尽きるのを待つだろうか。
ふと、考えに沈んだ俺の唇に要が触れた。
「君はもっと、我が儘にならないと。」
暖かい唇を受け止めながら、要の背をなでる。
猫のように喉をならして、要の背がのびた。
「さっきの。僕なりのプロポーズだったんだけど、分かってる?」
熱に潤んだ瞳で見つめられて、双丘に向けて下りかけていた手が止まる。
驚いて見つめると、薄く色づいた頬が本気だと告げる。
クラリ。と、目眩がした。
プロポーズ?
要が?
信じられない単語に、思わず呆然とした。
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