サイレント・ナイト

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クリスマスパーティーは、小さな美術館を貸しきりにして行われていた。 乳白色に発光する。美しい肢体を惜しげもなくさらす裸婦達の大理石の像の間を縫うように。クリスマスの飾り付けが行われ、見上げるほど高い天井まで届くかのような大きなツリーには、光る飾りとともに大小様々なプレゼントが吊るされていた。 会場に入る招待状に振られたNo.ごとに、箱が決められているらしく、お帰りの際にお渡ししますと案内してくれたクロークの男性が微笑んだ。 思っていたよりも大がかりな会場に舌をまく。 とても単なる身内の集まりには見えない。 大企業のレセプションか、パリコレかと言わんばかりの規模に怖じ気づきそうになる自分を奮い起こす。 隣に立つ漆黒の衣装を見にまとう要は、まるで夜の王のようだ。 深い光沢のある黒いスーツは要によく似合っていて、白を基調にした館内で光り耀くように浮かびあがり、その細く引き締まった身体を引き立たせて官能的でさえある。 現に飾り立てた人々のなかでも要は群をぬいていて、次々に人々に呼び止められて時間よりかなり早くついたはずなのに、ロビーからメイン会場に移る頃には開始時刻間際になっていた。 堂々とした要をエスコートするべく、何時もより背筋を伸ばして胸を張る。 要のパートナーとして、恥だけはかかせぬようにと気合いを入れ直した肩を、誰かが後ろからポンと、叩いた。 「タカちゃん、カナちゃん、メリークリスマス!」 真っ赤なドレスに、光る素材の白いファーを巻き付けた透が、ニッコリと微笑んでいる。 何時もより念入りに施された化粧が映えて、要と並ぶとまさに主賓といった貫禄だ。 付け焼き刃ではない、本物がもつ耀きに周りからも感嘆のため息が聞こえる。 「メリークリスマス。兄さん。 この度は素晴らしいプレゼントをありがとうございます。」 微笑みかえした要の笑顔に見とれていると、ニンマリと人の悪い笑顔で微笑んだ透が何事かを要に耳打ちする。 軽く目を見張った要が、イタズラを共有する子供のように透と笑いあったのをみて、はじめてみる子供っぽい笑顔に胸がときめいた。 一瞬、このまま空いている部屋に連れ込んでキスしたい衝動に襲われたが、場違いな妄想に苦笑いする。
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