サイレント・ナイト

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両脇を新堂兄弟に挟まれて、華やかな会場を奥に進む。 要と二人だった時には、あんなに話しかけてきたギャラリー達が、三人になると全く声をかけてこない。 ただ遠巻きに。 こちらに意味ありげな目線を投げ掛けて、目が合うとにこやかに微笑まれる。 顔も知らぬ。恐らくは要の親族であろう相手にニッコリと微笑みかえせば、いささか拍子抜けしたような呆けた顔で呆然と見送られる。 なにかおかしな笑いかたでもしたかと、内心首をかしげていると、隣から小さなため息が聞こえた。 チラリと目線をやれば、呆れたようでも得意気なようでもある複雑な表情を浮かべた要が目にはいる。 反対側から堪えきれないといった密かな笑い声と微かな振動が肘に置かれた指先から伝わり、何事かと目をやれば、バチリと音がしそうな勢いで透と目があう。 その途端。ものすごく人の悪い笑顔で 「なかなかのマダム・キラーね。」 と、艶然と微笑まれた。 今日の出で立ちで、役者のように微笑まれると、どこからどうみても悪女だ。 蜘蛛の糸に絡めとられて、食いつくされるとわかっていても、自ら罠にかかりた いと願うものがいても不思議ではない微笑。 人の悪い冷やかしを苦笑いでかわして、顔をあげれば、広い会場の一角にサンタに群がる子供達が見えた。 絵本から抜け出してきたかのような恰幅の良い、たっぷりと白い髭を生やした赤ら顔のサンタが子供達を膝にのせて、なにやら熱心に話している。 サンタの回りにはサーカス団の一員の様な格好のピエロや曲芸士達が、様々な芸を披露していて、小さな観客達の楽しげな歓声が響いていた。 小さな鉄道に、沢山のお菓子や風船が結ばれて、大人たちから子供達を区切るように線路が引かれている。 まるで、クルミ割り人形の劇の一節のような光景に目を奪われる。 要達も、幼い頃にはあの子供達と同じようにキラキラした目でサンタを見上げる輪の中にいたのだろうか? その姿が容易に想像できて、要の幸福な子供時代に思いをはせて幸せな気持ちになる。 それと同時に。これから先、二人で過ごすクリスマスも。同じくらいの幸福を要に感じてもらえるような自分でありたいと心から願った。
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