サイレント・ナイト

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ふと、気がつくと人垣が綺麗に分かれて、ホールの中央に立つ男女の元へと道ができていた。 両脇に分かれた人々は、此方と道の先に立つ人物の表情を見逃すまいと、興味津々と。だが、表面上は華やかに歓談しながら、まるで俺達が歩いていくことなど気がついてもないといった態で見守っているようだった。 「まるで、王の帰還ね。」 表情を変えずに、隣にいる俺と要にだけ聞こえる声で透が毒づく。 「相変わらずの暇人の巣窟ですね。」 にこやかな微笑みを浮かべた要も、やはり冷ややかな声で小さく呟いた。 表面上は穏やかだが、まとう空気がさえざえとしている。 なにがそんなに要を怒らしたのかわからず、不自然にならないように意識を要に集中していたら、それに気がついた要に大丈夫。とでもいうように二の腕を軽くたたかれた。 声をかけるべきか否かを迷った一瞬の間に、目前に迫った人物に、透が話しかけた。 「お母様、お久しぶりです。 今宵はお招き頂き、ありがとうございます。 この聖なる日に、家族皆でそろって御祝いできる事に喜びを申し上げます。 特に可愛い弟たちと、お母様とお父様の出逢いの場に同席できた事はなにより素敵なクリスマスの奇跡ですわね。」 とびっきりの笑顔と共に、目の前の美女に抱きつきながら、透が大きな声で弟達の部分を強調して回りによく聞こえるように歌うように言い切った。 「あら。要さんのパートナーだと聞いていたけど、透ちゃんのお気に入りでもあるわけね。 」 抱きつかれた美女は、大きな瞳をこぼれ落ちんばかりに見開いて俺をみた。 透の言動をみる限り、多分二人の母親なのであろう女性は、どうみても三十路をとうに越えた息子が二人いるとは信じられない若さを保っている。 豊満な胸元を惜しげもなくさらした金地に光耀くクリスタルを縫い付けたドレスは、柔らかな布地がなだらかな腰のラインに美しく寄り添い、花が開くように地面に向けてひろがる。 妖艶で艶やかな女性と、女装した透が並ぶと冬と夏の女神が並び立つかのようだ。
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