サイレント・ナイト

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「うちの両親ってね。 小さい頃からほとんど家に居なくてね。 もちろん世話係りやら、家庭教師とかはちゃんといたんだけど。 家族なのに、全員そろうのは年に数回の新堂家主催のパーティーのみって有り様でさ。 しかも、両親そろってかなりの放任主義なもんだから、子供の頃は随分と反抗したりしたんだけど。 兄さんが、ある日突然。 クリスマスのパーティーに今の格好で表れた時に、 母さんが 「あら、素敵ね。透ちゃん。」って、言ってお仕舞いってなった時に、バカらしくて反抗とか辞めたんだよね。 その時も父さんはなんにも言わないで、まるでなにもなかったみたいな態度だったから。」 どこか遠くを見ながら、初めて要から聞いた子供時代に衝撃をうける。 一般家庭の子供とは、環境が違うといえばそれまでだが。 小さな家で、兄弟や飼い犬たちともみくちゃになって育てられた原西からしたら、想像しただけで淋しい生活だ。 「髪の毛を撫でられたのも、今日が初めてなんじゃないかな。」 感慨深げに呟く要に、たまらず手を伸ばして腕の中に抱え込んだ。 抱き締めた要の肩は冷えきっていて、真っ黒なスーツが夜に溶けて。ほおっておいたら、このまま消えてしまうような気がした。 何時もは強気で、何者にも屈せない強い意思でリンと伸ばされていた背中が、子供の頃からの積み重ねで伸ばさずには立てなかったとしたら。 そう考えただけで、胸が痛い。
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