サイレント・ナイト

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「もしかして、僕ってファザコンなのかな。」 俺の胸にスリよりながら 「それって、かなりカッコ悪いよね。」 と、要が小さく呟く。 要を抱き締めたまま、無言で首をふる。 しばらく、そのままの体勢でじっとしていたが、やがて要がソッと腕に力を込めて身をはなした。 まるで、まだ母親に抱きついていたい子供が、就寝の鐘を聞いてしぶしぶ諦めたかのような動作に胸をつかれる。 「なにか、食べるものをとってくるから。君は此処にいてくれる?」 追いかけて、再度抱き締めようとした腕に手をかけて要が微笑んだ。 その瞳が。 これ以上、追及するなと告げていて。 力なく持ち上げた腕を下ろした。 少し奥まった位置に設置されたベランダは、会場内からベランダが覗けないかわりに、此方からも中の様子が伺えない。 すぐに見えなくなった要の背中に、なんともいえない想いが胸に渦巻く。 父親に頭をなでられた記憶さえないという要の子供時代が悔しくて。 その場に自分がいたら、嫌だというまで抱き締めて、いつも側にいてやれたのに。 いつの間にか握りしめた手の関節が白くなるほど、力が入っていた手に気がついて力なく上下に振った。 要が帰ってくるまでには何時も通りの雰囲気に戻さねば。 たとえそれが、偽りでも。 要がそう望むなら、叶えてやりたい。
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