サイレント・ナイト

22/49
前へ
/350ページ
次へ
表面的にながれていた和やかな空気は消えて、雪でも降りだしそうに冷えた外気と同じ温度をした瞳で見つめられる。 「ふぅん?」 小さく顎をあげながら。多賀谷が目を細めて俺を一瞬、睨んだ。 けれど、瞬きする間に表情をかえて。 本気のような、揶揄するような微妙な目線を投げ掛けられた。 「エスコートも満足にできないのに。 せめて番犬としての役割くらいは、果たしたらどうだい? こんな日に要を一人にしておいて。 その癖、随分と大きな口を聞くね。」 紳士然とした態度がくずれて、心底呆れた口調で諭されて、ムッとした。 「単なる付き人のつもりで同行したなら、そんな衣装は不相応だよ。」 言い返そうと口を開きかけたところで、またドアが開き、今度は飄々とした白髪の男性が顔をだした。 「あぁ、やっと見つけたぞ。 今夜の主役と嬢ちゃん方のアイドルがこんな寒空の下で密談とは、穏やかでないのう。」 人の悪い笑顔で茶化されて、フロアに戻るよう進められた。 突然表れた見知らぬ老人に毒気を抜かれて、進められるままにベランダを離れる。 多賀谷も、先程までの憎まれ口が嘘のように、にこやかな態度で老人の指示にしたがった。
/350ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1806人が本棚に入れています
本棚に追加