サイレント・ナイト

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「お久しぶりです。お爺様。 隆子さんのお姿が見えないようですが、ご一緒されていないのですか?」 うやうやしく。 些か芝居じみた態度で多賀谷がたずねれば 「こんな所に君がいると知っていれば、つれてきたがの。 蜂ヶ谷家に呼ばれたとかで、今日は別行動じゃ。 そんなことより、クリスマスを祝って、乾杯といこうかの。」 優雅に微笑みをたたえた多賀谷の動きが一瞬とまった。 よくわからないが、妙に緊張しているようにも見える多賀谷が、チラリと回りを見回す。 そうしている間に、老人が片手をあげてボーイを呼びよせ、シャンパンを三つ用意させた。 「まずは運試しじゃ。 さて、若者には選択肢をやろう。」 ニヤリと笑われて、グラスを選ぶように促され、手前に置かれたグラスを手に取る。 隣で小さくため息をついた多賀谷は、老人側のグラスを選んで、高くかかげた。 「クリスマスに。」 残ったグラスを手にとった老人の合図で、グラスの中味を飲み干すと、横から「この、馬鹿がっ。」という呟きと、舌打ちが聞こえた。 聞いたこともない多賀谷の罵声に、何事かと視線を流した目の動きと、同じ速度で視界が歪み、グラリと身体が傾いだ。 途端。ガッシリと抱え込まれて肩を抱かれた。 「初対面の人間から渡された飲み物を、一口で飲み干す奴がいるかっ!」 若干焦ったような声が耳元で聞こえて、多賀谷が支えているのだと理解する。
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