サイレント・ナイト

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立ち上がろうと、足に力をいれるが、柔らかな地面に力を吸いとられて上手く立てない。 先程口にしたシャンパンに、なにか入れられたのは間違いないが何故かがわからず、混乱する。 「こりゃまた。随分と素直なお子様じゃな。」 愉しげな老人の声がグワンと頭の中で鐘の音のように響きわたった。 「素人相手にやりすぎですよ。」 いさめるような声がしたかと思うと、なかば引きずられるようにして、歩かされる。 「おや。珍しく面倒見がよいの。」 「要の留守中に、原西君に怪我でもさせたら俺が要に嫌われるじゃないですか。 とにかく、彼は一旦やすませます。」 ペチペチと頬を叩かれて、まだ気絶するなよ?と注意される。 俺だって、こんな場所で意識を無くすのは御免だが、強い酒によったように身体がいうことをきかない。 暫くは回る頭に渇を入れながら歩いたが、「ここで待ってろ。」と、耳元で多賀谷の声がした後、投げ出されソファに横になった処からプッツリと意識が途絶えた。 要に待っていてと言われていたのに。なにも言わずに姿を消したことになり後悔するが、どうしようもできない。 最後にみた淋しげな背中が、何度も暗闇に浮かんでは消え、伸ばしたはずの手は届かず。 ただ、遠くから名前を呼ばれたような気がした。
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