サイレント・ナイト

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瞼の先に明るい光が見えて、段々と意識が浮上する。 微かに残るダルさと、急激に頭をもたげてきた身体の奥から突き上げてくるウズきに戸惑う。 喉の乾きに、もがくように手を伸ばせば、ヒンヤリとした、なじみのある手に捕まれてまぶたを開けた。 「気がついた?」 視線の先で、要が水の入ったグラスを片手に覗きこんでいる。 頷きながら身体を起こそうとしたが、軽く身じろぎしただけなのに、皮膚にすれたリネンの感触に喉が鳴って目を見開く。 近づいてきた要の唇があわさって、冷たい水が口内に流れ込んできた。 ゴクリと飲み込んで、その官能的な感触に短く息を吐く。 「お爺様の悪戯に、巻き込まれたね。」 額に浮かんだ汗を拭き取りながら、要が再度口に含んだ水を流し込んできた。 喉を濡らす水の感触が、身体中に拡がって背中を震わせる。 「辛いでしょう? お爺様特製の神経過敏促進剤をのんでるから。」 要の口から告げられた言葉に目を見開く。 祖父が孫に飲ませるには、あまりにも穏やかでない単語に眉を寄せる。 「歳のせいか、最近はなりふりかまわず必死でね。 今年の標的は聡司だったんだろうけど。 隣にいた君は、憂さ晴らしに選ばれたんだろうね。」 何でもない風を装いながら、瞳が煌めいていて要が心底怒りに満ちていることが伝わる。 僅かに頬が上気して、色づいた肌が恐ろしいほどに美しい。 「薬で酔わして、子供だけでも作ろうとしたんだろうけど。 今更、聡司が引っ掛かるわけもないのに、懲りない人だよ。」 何でもないことのように話されるとんでもない内容に、薬のせいだけではなく目眩がする。 「要は?」 思わず訊ねた質問に、意味ありげに微笑まれる。 「僕に薬なんか盛って、無事にすむと思うほどには、まだ耄碌してないみたいだよ。」 ニッコリと微笑まれたが、安心はできない。 「でも、君に手を出しても良いだなんて考えたとこをみると、そろそろ潮時だろうね。」 空になったグラスを手の中で遊びながら、要が思わせぶりに笑った。 「俺は大丈夫ですから。」 要の表情に穏やかではない感情を感じとって、牽制する。 「多賀谷様は?」
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