サイレント・ナイト

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まだ、グラグラと廻る視界に眉間にシワが寄る。 ここに要がいるということは、多賀谷が呼んできてくれたのだろう。 「此処にいますよ。」 部屋の奥から、ふて腐れたような声で多賀谷が答えた。 座っていた椅子から立ち上がり、近くまでくると不本意そうに見下ろされる。 「悪かったな。逃がす隙もなかったから、爺さんの悪いジョークに付き合わせた。」 ポケットに両手を突っ込んだままの姿で、謝罪される。 随分と子供っぽい仕草だが、いつもの悠然とした姿よりよほどしっくりくる。 多賀谷は、チラリと要をみた後、そっと両手をポケットから引き出して腕を下ろした。 その姿が何処かふて腐れたガキ大将を思わせて、思わず頬があがる。 「運んで頂いてありがとうございました。」 意識のない身体を、会場から騒ぎにならぬように連れ出してくれた礼をいうと、微妙に呆れた顔をされた。 「お前、もうちょっと勉強したほうがいいぞ。 透でも、俺でもいいから。一度、話を聞きにこい。」 何故かいきなり近づいてきて、真面目な顔で諭されて驚いた。 隣で、小さく要の笑い声が聞こえる。 「相変わらず聡兄は、面倒見がいいね。」 「だって、此れはあんまりだろ。」 揶揄するように茶化す要に、多賀谷が苦虫を噛み潰したような顔で俺をみる。 心なし今までより眼差しが暖かい。
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