サイレント・ナイト

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「あげませんからね。」 ジョークとも、本気ともとれる声音で要が笑う。 「いらねぇ。」 心底嫌そうに返されるが、その声には以前のような険はない。 「あんだけまともに爺さんの薬を飲んで、普通にしてられる根性は誉めてやる。 けど、もう少し要心ってものを覚えないと。 あっという間に食い者にされるぞ?」 クシャリと俺の頭を撫でたかと思うと、そのままドアに向かってあるきだした。 「大丈夫そうだし、俺は帰るよ。 暴れたりもしなそうだしな。」 ヒラヒラと手を振りながら、振り返りもせずにドアの向こうに消えた多賀谷に呆気にとられた。 急激な態度の変わりように、いささか面食らっていると、要が俺の寝ているソファに座った。 「何だか、気に入られたようだね。」 当然といわんばりの口ぶりに、訳がわからず首をかしげながら見れば、憮然とした俺の顔を見て耐えきれないと要が吹き出した。 「あァ見えて、従兄弟内で一番お兄ちゃんでね。 面倒見は呆れるくらい良いんだよ。」 クスクスと笑いながら、寄りかかってきた要を受け止める。 顎下をくすぐる柔らかな髪に、思わず身体が震えた。 「聡司も、昔同じ薬を呑まされてるから。 君が今、こうして僕と普通に話す辛さも分かってると思うよ。」 話しながら、胸元をソッと撫でられて鳥肌がたつ。 「普通は、こうして話すなんて無理なはずなんだよ。 本能に支配されて、たまらなくなる薬だからね。」 確かに。 近くに感じる要の体温だけでも勃ちそうではある。
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