サイレント・ナイト

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だが、他の人間がそばにいて見境なく手をだすほどの薬でもない気がする。 「ここは?」 意識をそらそうと、見慣れない室内を見回しながら訊ねた。 「僕らの休憩室。今日はこのままとまっていいから。 一人にさせて、ご免ね。」 ポツリと落とされた謝罪に、首をふる。 寄り添った要を引き寄せて、胸の上に抱き上げた。 ピッタリと俺の胸に片耳を押し当てて、目を瞑りだまったまま。 時折、震える睫毛が苦悩を宿しているようで、声がかけられない。 「心臓の音、すごく早いね。」 ユルリと。口の端をあげた要が呟いた。 どうにも腑に落ちない。 相変わらず、なにかあっても素知らぬ顔をし続ける要はいつものことだが、自分の知らぬ場所で多賀谷となにかあったのはあきらかで。 憂いをおびた眼差しが引っ掛かり、そっと髪をなでる。 柔らかな髪が、さらりと手のひらを撫でる感触に背中が震えるが、沸き上がる快楽を意識して遠くに押しやる。
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