サイレント・ナイト

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「一人でいて淋しと思ったのも、誰かを愛しいって思えたのも、君が最初だ。」 伸ばされた腕が背中にまわされて、抱きつかれて伝わる心音が早くて愛しい。 「愛してるんだ。 君の事が大事すぎて、おかしくなりそうだよ。」 俯きながら告白されて、見下ろした要の首まで紅く染まった肌が眼に焼きつく。 あまりに幸福で、薬のせいで、夢でも見ているのではないかと、一瞬疑う。 けれど、腕に抱くすべらかな肌も。 胸にかかる優しい吐息も、間違いようもない恋人のもので。 抱き締め返した腕を解いて、ソファに座り直した。 「それこそ、俺の台詞です。」 覗きこんで口づけをかわし、抱き締めなおす。 「俺の側に、ずっといてください。 愛しすぎて、溺れてるのは俺の方です。」 女々しすぎると、口にできなかった想いをつたえると花が綻ぶように笑われた。 「君が相手なら、負けるのも悪くないね。」 嬉しそうにかえされて、抱き締める腕に力をこめた。 要の肩越しに、部屋の奥にベットが見えた。 抱き締めたままの態勢で立ち上がり、膝を抱き上げて横抱きにする。 キョトリと見上げた要にユックリと口づけて、甘い口内を満遍なくなめあげた。 ホゥッと息を吐いた要に、目線でベットを指して許可をとる。 「もう少しだけ、お付き合い頂けますか?」 耳元でささやくと、鈴がなるように小さく笑われてほほえまれた。 「君が僕の王なんだよ。 王様の仰せの通りに。 逆らう気なんて、僕にはないよ。」 微笑んだ恋人は美しく。 夜はまだ始まったばかりで。 窓の外では、真っ白な雪が世界を埋め尽くしていた。 恋敵は多く。 未知の世界への扉は開いたばかりだが、今、ここにある幸福に酔いしれる。 この愛しい人が腕のなかにいて、越えられない壁などないように思える。 静かな夜は祝福に満ちていて、お互いの瞳にうつる愛に浸る。 この時を肌に刻み込むように、また沸き上がる欲望に身をひたした。
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