サイレント・ナイト

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愛を交わしたばかりの肌は、軽く指先で撫でられただけで、しっとりと汗ばみ。 肌を滑る指先の動きを、鋭敏に伝える。 今までないほどに力づよく求められて、これまでずっと手加減されていたのだと、知った。 薬のお陰で、ブレーキの外された原西の食い尽くさんばかりの熱量に圧倒されて、ただ翻弄されて。 屈辱ともいえる圧倒的な快感の波にさらわれて、反撃もできずただ鳴かされた。 今までのセックスで一度として飛ばしたことのない意識を手放しかけて、あわててつなぎとめた。 無意識でなにかを口走ってしまいそうで、悪寒に背筋がふるえる。 コントロールできない感覚に、恐怖さえ感じた。 快楽は好きだ。 享楽も、怠惰も望むところだが。なにもかも手放した、本能のまま僕がなにを願うかなんて知りたくない。 ベランダに彼を残したまま、先程歩き去った彼に意味深な視線を投げ掛けた不届きものを、一々目線で牽制しながら歩くだなんて馬鹿までやらかして。 すれ違った聡司に、呆れた顔で見送られた。 昔、あんなに欲しかった父親からの関心が、原西を通して自分に向けられたことに、嬉しさと同時に不安が募った。 どうにも感情の自制がきかず、混乱する。 なにを恐れているのか。 望む人は、ただ一人。 その相手は、今、自分の掌中にあるというのに。
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