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笑えるほど。臆病な自分に、嫌気がさす。
目の前の恋人の愛情をうたがい、計りながら、抱かれていると知れば、原西だって愛想をつかすかも知れない。
繋がったまま、そっと落とされた優しい口づけに、原西を見上げた。
今しがたまでの。ネットリとした欲が嘘のようなすんだ眼差しに、突然気が付く。
信じられないのは、恋人ではなく。自分自身の価値だ。
他人が見る自分の価値は、知っている。
新堂家の次男坊で、母親譲りの端正な顔立ち。
何時だって崇められた自分の価値は、何一つ努力などせずに手にしていた単なる幸運で。
今の会社が上手くいったのも。実際のところ豊富な資金と、親族による後援が大きい。
だからといって、持てる武器を使わずに投げ出す愚か者になる気はなく。
これまでは、それで構わなかった。
己の幸運を最大限に利用して、自堕落に。怠惰に幸福を享受して。
いつからだろう。
自分自身にも、目の前の恋人にも誇りに思ってもらえる己になりたいと願うようになったのは。
確かな価値のある何かになりたい。
隣にたつ原西に、一緒に生きたことを後悔させないだけのものを手にいれたい。
驚くほど単純で、馬鹿馬鹿しくも儚い願いに思わず笑いが込み上げてきた。
ここまで自分がロマンチストだとは、思わなかった。
あまりに青く、子供のような自身の渇望の正体に込み上げてくる笑いが止められない。
その時、身を固くして、小さく息を詰めたままの恋人に気がついた。
「どうしたの?」
辛そうに寄った眉に、慌てて覗きこもうとした動きを制された。
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