サイレント・ナイト

40/49
前へ
/350ページ
次へ
柔らかなベットに身をなげだして、素肌のままシーツに溺れた。 恋人の暖かい胸に耳をあてて、ユックリと時を刻む心音を数えながら、窓の外で降り積もる雪をみる。 皆が帰った夜の美術館は静かで、優しい空気に満ちていた。 時々、短い会話とも睦事ともいえない言葉をかわしながら、夜にたゆたう。 身を起こした原西が、ジャケットの内ポケットから小さな箱を取り出した。 「少し早いですが、クリスマスプレゼントに。」 差し出された小箱には、真珠貝にオニキスのラインが入ったネクタイピンが入っていた。 「今はまだ、指輪は贈れませんが。 要のハートの一番近くに居させて下さい。」 小さく呟かれて、思わず微笑んだ。 「僕はプロポーズしたのに、君は指輪も贈れないの?」 首をかしげながら訊ねれば、思いの外キッパリとした眼差しで見つめられた。 「今、俺から指輪を贈れば、受け取っては頂けるでしょうが、アンタと対等にはなれません。 これから死ぬまで側にいるなら、ちゃんと要を守れるようになってからアンタを手にいれたい。」 驚いて見上げると、僕の死ぬほど好きな顔で笑われた。 「長くは待たせません。 来年の今頃には、きっとここに指輪をはめさせます。」 そういって、僕の左手を持ち上げて、薬指にキスを落とした。 恭しく、厳かに。 相変わらずキザだと、笑うこともできたはずなのに、知らず熱くなった頬に気を取られて言葉がでてこない。 「しばらく多賀谷様にも御世話になると、思います。 アンタが大事にしているもの全てを、必ず守ってみせます。」 まるで決意表明のように語られて、瞬きを繰り返す。
/350ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1806人が本棚に入れています
本棚に追加