サイレント・ナイト

42/49
前へ
/350ページ
次へ
頬は熱く、心臓は馬鹿みたいに撃ち鳴らされて居たたまれない。 なのに、驚くほど安らかで満ち足りた気持ちに戸惑いさえ覚える。 今ならお伽噺も信じられる気がする。 そして二人はいつまでも、いつまでも幸せに暮らしました。 永遠に。 よくある物語のおしまいの言葉を呟いて、小さく笑う。 どちらかというと、自分には悪いお妃や魔女の役回りのほうがシックリと馴染む気もするが。 原西が王子なら、自分が相手でも許される気がするから不思議だ。 彼が追うなら、僕も走り続けよう。 彼の眼差しが他にそれないよう、力のかぎりをつくして先をいく。 いつか追い付かれたら、その時は隣に並んで、同じなにかを目指して生きていきたい。 自分自身が信じられなくても。この世でもっとも信頼する男が、愛してくれた自分なら信じられる。 原西の眼差しを通して見える自分を誇って。 この聖なる夜に、誓いをたてよう。 この世の全てに背向いても、彼だけは裏切らない。 世界中で、唯一無二の僕の王に忠誠を誓う。 それがきっと僕らを守る。
/350ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1806人が本棚に入れています
本棚に追加