サイレント・ナイト

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「で? 聡お兄様は、私の可愛い原西君になにをしでかしたのかしら?」 「なんにもするわけないでしょう。 ちょっと話してたら、直ぐにじいさんに邪魔されたからね。 親切で、部屋まで運んでやっただけですよ。」 仁王立ちで、不機嫌を絵に描いたような顔で俺をみる透にげんなりしながら答えをかえした。 「、、、、それだけ?」 随分と拍子抜けした顔で、透が首をかしげた。 「それだけですよ。」 運んでいる途中に、駆け寄ってきた要の。 動揺を内側に押し隠してはいるが、どこから見ても慌てていた姿を思い出す。 周囲を気にして、用意された室内に入るまでは平静をよそおっていたが、ドアを閉めるが否や詰め寄ってきた真剣な眼差しを思い出して、苦笑いをもらした。 バレンタインのちょっとしたイタズラから数ヶ月たって、少しは落ち着いたかと思えば。 世界で一番可愛いが、それゆえに毒も強かった麗しの従兄弟が。 以前よりも。 はたからみてもソレとわかるほどに、恋人に夢中だった。 あれほど人に弱味を見せるのが嫌いだった男なのに。 目を覚ました原西の前で、小さな頃と同じ。 愛らしい微笑みを浮かべ、頬をそめる様をみた時から、俺の中で原西は排除すべく輩から、正式な要の恋人として格上げされた。 あんな顔をさせる男を、要から引き離したらあの子を本気で悲しませる。 要から原西を捨てるなら、いくらでも尽力するが。 その逆はあっては、ならないことだ。 昔から。あの可愛い従兄弟が喜ぶことなら、何でもしてきた。 そのためなら、自分の胸を締め付ける多少の寂しさも受け入れよう。
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