サイレント・ナイト

47/49
前へ
/350ページ
次へ
歪んだお前とちがって、俺のは純粋な愛だと胸の内でぼやいたが。 それを口にするような愚かものは、ここにはいない。 賢者は只、口をつぐむ。 幸いなことに。今夜はクリスマスだ。 大事な従兄弟が、少しでも長く幸せに浸れるよう、贈り物をしよう。 敵に塩を贈ることには、いささか不本意だが。 原西の側に、要の幸せがあるなら、今は致しかたない。 やがて要が落ち着いて。 小僧と別れて一人になることがあるなら、駆けつければいい。 そうでないなら、あの寂しがりやの小さな従兄弟が。やっと手にした幸福を見守って過ごす。 それは、どちらに転んでも。俺にとっての幸福には違いない。 聖者になるには、うってつけの夜だ。 遠くから聞こえる讃美歌が、やけにシックリと胸に染みる。 こんなとき、歳を取ったなと実感する。 10代のひたむきさも、20代の情熱も既に手放して久しいが。40代のしぶとさは、あの小僧にはわかるまい。 自嘲気味に上がった口許を見られたくなくて、透に背を向けた。 またなと手をふると、やけに穏やかな瞳で見送られため息がもれる。
/350ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1806人が本棚に入れています
本棚に追加