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「起きてた?」
眼下に広がる街の灯りを眺めながら、遠い場所にいる恋人に繋がる、小さな銀のボックスを握りしめる。
冬のキャンプに着いていくはずのスタッフが急病に倒れ、唯一スケジュールが開けられた原西が沖縄に旅立ってから1週間。
定期的な業務連絡の他は、ゆっくりと話すこともできずにいた。
年末の社長業は思いの外忙しく。
優秀な秘書まで手放す事になった僕は、かってないほど慌ただしく過ごしていた。
珍しく早々にお開きになった接待から解放されて、やっと原西に電話をかけられた。
それでも、既に日付も変わろうかという時間帯で。
明日も早朝からの練習に付き合うのであろう原西が起きる時間までは、後、数時間しかない。
本来なら、仕事を優先して睡眠をとらせるべきだとはわかっているが。
どうしても、声が聞きたかった。
原西の居ないベットは広くて、暖房をつけても寒々としている。
疲れて帰ってきたはずなのに、眠れなくて。何度も寝返りを繰り返しては、広すぎるベットで、ため息をおとす。
浅い眠りから目覚めた朝は、無意識に彼を探して。腕がシーツをさ迷ようこともよくあった。
「起きてましたよ。
声が聞けて、嬉しいです。」
電話越しにきく原西の声は低くて、耳に心地よい。
何だか、ものすごく久しぶりに聞いた気がした。
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