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「早く帰ってきてよ。
何だか、一人だと寂しくて落ち着かないんだ。」
まだ動揺を押さえきれずにいた僕は、恥ずかしさをまぎらわそうと、咄嗟に頭に浮かんだ言葉を口にした。
それが、己の本心から漏れた言葉だと気がついて、更に頬に血をのぼらせた。
甘えるような口調になってしまったつい今しがたの言葉を、出来ることなら取り戻したいたいとまで願いながら目線をあげる。
窓ガラスに、あり得ないほど赤面した子供のように無防備な自分を見つけた。
一体、自分のこの反応はなんだ。
「、、、アンタって人はっ。」
原西が、電話の向こうで行為の最中に耐えきれず漏らす声音と同じ温度で悪態をついた。
「原西?」
獣のように電話口でうなりごえをあげる原西に問いかけると
「明日、一日OFFになりました。
朝一の飛行機で帰るので、三時間だけ俺に時間を貰えないですか。」
絞り出すように提案されて、呆気にとられた。
「沖縄から、大阪に日帰りする気?」
「要がいいと言ってくれるならですが。」
質問に被せるようにかえされて、笑いが押さえられない。
「それは、また熱烈だね。
嬉しいけど、こっちで運動までしてトンボ返りじゃ、忙しすぎて心臓が持たないんじゃないの?」
過労死しちゃうよ?と、予想外の原西の言葉に逆に落ち着きを取り戻した僕が、からかいでかえした。
「俺のハートは、要の側に置いてありますから。あるべき場所に帰るだけです。
むしろ、あと1週間も逢えないほうが死にそうです。」
それなのに、真っ正面から打ち返されて、またしてもくちごもってしまった。
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