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電話口で、原西にホテル名を告げる。
「仕事が早めに片付いたから、今、向かってる。先に部屋でまっててくれる?」
何でもないふうを装おって、返答をまつと小さく掠れた僕の大好きな声で笑われた。
「今回ばかりは、俺が要を喜ばせたかったんですが。」
苦笑いと共にかえされて、その甘い響きに酔いながらも、首をかしげた。
「充分、嬉しいけど?
僕が、待ちきれなくて、誰かを迎えに行くなんて珍しいんだよ?」
知ってると思うけど。
内心で、そう付け加えると。
メキョッ。と、遠くで何かが割れるような音がした。
「どうしたの?」
不思議に思って問えば、
「、、、グラサンが割れました。」
決まり悪げにかえされた。
「何やってんの。怪我はない?」
いささかあきれて返すと、
「大丈夫です。」
やけにそっけなく返答された。
それから、直ぐに電話を切られてしまいタクシーの後部座席で空を見上げた。
機嫌が悪いわけではないようだけど、耐えきれないといった風情で電話を切られて気にかかる。
それからの30分がやけに長くて、やっぱり迎えに行くのは苦手だとボンヤリ思った。
求められる事に慣れすぎて、自分が追う側になると、途端に怖くなる。
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