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今だって、そうだ。
顔を見て、抱き締めて。
連日の業務で疲れているはずの要を休ませてやりたいと思っていたのに。
扉を開けて、いつもより早い呼吸で俺を見上げる要を見たら、もう駄目だった。
口を開くより先に抱き締めて、逢いたかったと、呟いて。
そのまま抱き上げて、歩き始める。
応接間に置かれた食事に手もつけず、リビングを通り越して、寝室にむかう。
「腹は空いてないですか?」
早くから働いていたに違いない要に、放してやれるかもわからないくせにたずねた。
そうすると、まるで俺の思考などお見通しだと言う顔で。
当たり前のように首に手をまわされて、微笑まれる。
「ペコペコだよ。全然、君が足りない。
もっと抱き締めてくれなきゃ、倒れそうだよ。」
そういいながら、グルリと目を回してクッタリと胸元に倒れこんでくる。
いつでもこうして、甘やかされている。
普段と違う香りがして、思わず髪に鼻を埋めた。
「いつものシャンプーの匂いと、違いますね。」
わざと耳元でささやくと、くすぐったそうに笑って、頬をすりよせてくる。
「寒くなってきたからね。乾燥対策。」
イタズラが成功した子供のような顔で微笑まれる。
以前に二人で買い物にでたさいに、よい匂いですねと話したパヒュームと同じ匂いがする。
俺の好みの匂いを、わざわざまとってきてくれたことに、ほほが緩む。
広いベットの上で、一枚ずつ邪魔な洋服を剥ぎ取れば、身にまとうのは香りだけだ。
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