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ふと、気がつくとぼんやりとした霧のなかにいた。
わずかに湿ったような、ヒヤリと冷たい霧の中を歩く。
辺りを見回しても、誰もいない。
自分の衣擦れの他は音もなく、なんだか酷く心もとない気分になった。
誰かいないかと声をあげようとするが、口を開けると、口内にネットリとした粘度をました空気がはいりこんできて、音を奪われる。
やがて。緩慢な速度で喉に流れこんできた霧に、気道をふさがれた。
息苦しくて、もがく。なのに、まるで水の中にいるようで、身体が思うように動かない。
結果。バタバタと、ただ手足を振り回すだけで。やがて、肺にまで入り込んだ霧のせいで苦しくてたまらない。
目の前がチカチカと瞬いて、頭の中に警報が鳴り響く。
スッと音をたてながら、血の気が引いていくのがわかった。
真っ赤にそまっていく視界が恐ろしくて、目をつぶる。
ギュッと瞑った瞼の先に、浮かんだ篠田の顔に、手をのばしたところで、また意識が途絶えた。
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