1806人が本棚に入れています
本棚に追加
それはつまり一生一緒にいて、お前の飯は俺が作るとかいうつもりなのかと、茶化そうかと思ったが。
普段の態度を思い返すと、むしろ、いないつもりなのかと詰め寄られそうな気がして慌てて口をつぐむ。
たまに。
思い出したように、ふとした時に。
篠田はこうして、何気なく二人で過ごす未来の話をする。
当たり前の。当然やってくるべきいつかの話として語られる未来の話に、なぜだかいいようのない不安を覚え始めたのは、何時からだったか。
篠田と暮らしはじめて、もうすぐ10年になる。
30近くになると、次々と周りが結婚しはじめて。今では、独身者のほうが少数派だ。
たまに実家にかえれば、連れてくる彼女はいないのかと、母親にせっつかれることも多くなった。
20代で独身ならめずらしくもないが。30を越えた辺りから、独身でいつづけることの理由を無言のうちに求められているかのような気がする。
篠田と別れるつもりは更々ないが、年齢が上がるにつれて、ただ一緒にいることの難しさに、途方にくれる瞬間がふえた。
だからと、いって。それを理由に篠田と別れるつもりは湊にはない。
篠田のことは好きだし、誰にも渡したくない。
篠田の隣を誰かに譲るなんて、できるはずもないのに。
だが、俺がそばにいることで。
湊だけではなく、篠田が家族をもてる可能性も同じ速度でなくなっていく。
付き合いはじめのころだって、それは分かっていたが。
こうして自分の年が上がってくると、朧気だった「手にすることのできるはずだった普通の男としての未来」が質量をまして、実感としてのしかかってくる。
それを手放すこと自体に未練はないが。
篠田にも同じように放棄させておいて、病気や事故で早々と自分が死んだりしたら?
今までは何となくだった焦りのようなものが、今回の再検査でパッカリと口を開いた。
考えすぎだと、笑ってけちらかした未来のひとつが、現実になったら?
もし、俺になにかあったら。
篠田は本当に一人になってしまうのだと。
逆なら、構わない。
俺が残るなら、篠田が不安にならないよう最後は笑って見送ってやるくらいの覚悟はある。
最初のコメントを投稿しよう!