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そもそも。付き合いはじめから、俺が篠田を見送るイメージはいつも頭の片隅にあった。
けれど。今回のことで、あり得るかもしれないもしもが、急に現実味を帯びて見えてしまった。
今ならまだ間に合うと。頭の何処かで声がする。
答えられるはずもないその誘いが、ここ数年は澱のように降り積もっていく。
篠田の相手が女になった所で、どちらかが先に逝く可能性はかわらないが。少なくとも子供がいれば、篠田を一人にさせることはない。
ただ好きだからというだけで、篠田の未来をせばめてしまうのが、怖かった。
「まだ、キツイのか?」
いつの間にか、箸の止まった俺を心配して目の前まで篠田が顔を寄せていた。
最近、渋味をましてきた顔をじっと見つめる。
年を増すごとに男臭さがまして、無精髭の似合ういい顔になってきた篠田の頬に手をあてて、伸びてきた髭でザラザラとした肌を撫でた。
そのまま手を引くと、まるで磁石のように篠田がついてきて、吐息が触れるほどちかくにきた所で固い頬にキスをした。
「どうした?」
問いかけながらも、嬉しそうな篠田になんだか負けたような気がして、悔しくなる。
篠田はいつだって真っ直ぐだ。
迷いなく、全身で俺のことが好きだと表してくれる。
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