万有引力

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動きを止めたままの湊の隣に、勢いよく座り込んだ篠田が、慌てて湯船の湯をすくって絡み付いた欲望の跡をぬぐいとった。 生暖かい湯と、おおきな手のひらが顔の上を往復し、ひどく焦った様子の篠田に抱えあげられて湯船から出された。 此方がなにかいうよりも早くバスタオルを頭から被せられて、乱暴にふかれたかとおもうと、そのまま小脇に抱えられてベットまであっという間に連れ去られた。 ボスンとマットレスになげられて、スプリングが軋んだかとおもうと、篠田に勢いよく抱き締めれる。 あまりの早業に呆然として、胸元に抱きついたままの篠田を見下ろせば、首筋まで真っ赤にしたうなじが見えた。 「、、、篠田?」 どう声をかけたものかと、思い悩んだが、じわじわと赤みをましてゆく耳元にかわいそうになって名をよんだ。 「、、、、、なんだよっ。」 胸元に顔を埋めたまま、いつもより若干幼く聴こえる声で篠田が呻くように返事をかえす。 よほど、先程の失態が恥ずかしかったらしく、拗ねたようにもみえる姿が可笑しい。 逆のパターンで湊が追いたてられたことは何度かあるが、そういえば篠田だけが達したのは初めてな気がする。 思わず。顎したにみえるつむじを片手でかき混ぜると、不本意を絵に書いたような顔で見上げられた。 「気持ちよかった?」 不思議なもので、先程まではあんなに恥ずかしかったのに、相手が照れると逆に落ち着いてからかう余裕さえでてくる。 してやったりと満面の笑みを浮かべて問えば、一瞬だまりこんだ篠田が、やがてニヤリと笑った。 「すげぇ、よかった。、、、もちろん、湊も、俺の礼を逃げずに受けてくれるよな?」 そう笑顔で返してきた篠田の顔が。 今までの長年の付き合いで、見たこともないほど輝いていたのは、俺の気のせいではなかったと思う。 ネズミでさえ、追い詰めれば猫をも噛むというのに。 不用意に肉食獣を刺激した俺が無事なはずもなく。 翌日。上機嫌で出社する篠田を、ベットから起き上がれず寝たまま送り出したのは当然の結果と言えなくもない。
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