万有引力

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「面会謝絶?」 真っ白な病室のドアに、無情に掲げられた札にかかれた文字を呆然と読み上げた。 そんなに良くない状況なのだろうか。 急に足元がグラついた気がして、廊下に置かれた長椅子に座り込む。 どのくらい、そうして座っていたのか分からないが、目の前を看護婦が通りかかりハッとする。 「あの、ここに入院した篠田さんの容態は、、、」 話しかけた俺に、立ち止まった看護婦は「ご家族の方ですか?」と、事務的にたずねた。 黙って首をふると、ご家族以外にはこたえられませんと、冷たく返される。 10年以上も一緒に暮らしていて。今、一番篠田の近くにいるのは自分だというのに、事故で意識のない篠田の様子を知ることも、病室に入ることもできない。 悔しいのか、悲しいのか自分でも分からない。 篠田の安否もわからなくて、ぐちゃぐちゃな気持ちで、目の前がゆらいだ。 ちからなく項垂れて、動けないまま。 せめて篠田の顔が見たいと思った。 目の前のドアさえ開ければ、すぐそこにいるはずなのに。
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