万有引力

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ベンチに座ったまま、祈るような気持ちで篠田の無事を願った。 「あれぇ?もしかして、湊くん?? なんで、こんなとこにいるの?」 聞き覚えのある。 だが。場違いなくらいあまりにも暢気な声が、廊下に響いて顔をあげた。 「、、、タクミさん?」 状況がよくわからなくて、首をかしげながらジッと俺を見つめるタクミを見つめ返した。 「ん~。ここで話すと、患者さんが起きちゃうかもだし。 此方においで?」 そういいながら、握り締めすぎて真っ白になった俺の指を一本づつ解すようにはなしてから、そっと手を握られて引っ張られた。 その手に込められた予想外に強い力に引っ張られて立ち上がったが、篠田の近くから離れたくなくて歩き出せない。 俺の手を握ったまま歩き出そうとしたタクミが、動かない俺にひっぱられるかたちで、立ち止まった。 無言でかるく腰を折って俺の顔をのぞきこんだタクミは、見たこともない瞳をしながら苦笑いしたかと思うと、俺の耳に唇をよせて呟いた。 「この階の当直は僕だから。 僕と一緒にいて、なんの連絡もなければ患者さんは皆無事だよ?」 緩慢な動作で見上げれば、子供にするように頭を撫でられた。 少なくとも、今、篠田は無事だよと。 そう言われた気がして、身体から力が抜ける。 そのまま再度引き寄せられて、今度は抵抗する気もおきずにタクミの後に続いた。
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