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「はい。どーぞ。」
カチャリと音をたてて、目の前に淹れたてのコーヒーが置かれた。
タクミにつれてこられたのは、五畳ほどの小さな部屋で。仮眠室もかねているのか、壁際に簡易ベットも置かれていた。
とても何かを口にする気は起きなかったが、タクミに無言で促されて、根負けした。
小さく会釈して、コーヒーに手を伸ばす。
一口。
口に含むと、ふくよかな薫りが鼻にぬけて、僅かに加えられたブランデーが舌にのこった。
急に現実に帰ってきた気がする。
「頭部強打で、昏睡状態。
スポーツ選手であることから、マスコミよけもかねて意識が戻るまでは隔離処置と。」
小さく呟かれた言葉に、弾かれたように顔をあげると。椅子に腰かけ、背を向けたままのタクミが、書類を片手に手帳になにかを書き付けていた。
「今日の患者さんの状況だけまとめちゃうから、待っててくれる?
独り言が多くて煩いかもだけど、あと一人で終わりだから。」
顔をあげた俺を振り返りもせずに、ペンを走らせながら、肩越しにヒラヒラとあいた手をふられる。
「あ~。MRI でも出血とかないのね。
嘔吐とかもなし、と。
他に怪我もないみたいだし、これなら、目が覚めさえすれば心配なさそうだねぇ。
こりゃ今日は、当たりの日だね~。救急さえ入らなかったら、朝までゆっくりコースだよ。」
そういいながら、クルリと椅子ごとまわって振りかえると、パタンと手帳を閉じた。
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