万有引力

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あまりにも真剣に真っ直ぐに好意をむけられて、グッと息をのむ。 単なる欲望だけでない、真摯な想いに圧倒される。 篠田か、自分に恋愛感情を抱く新たな第三者の想定は何度かしたが、相手はいつも女性だった。 まさか、篠田以外にそういう意味で自分を求める物好きな男がいるなんて、夢にも想像しなかった。 まだ篠田にいいよる男が現れたというほうが納得できる。 「俺、付き合ってる奴がいるんです。 だから、他の相手とどうっとかって、考えられなくて。」 なんと言えば、なるべくタクミを傷つけずに断れるかを考えるが、自分にはとても無理だ。 「タクミさんにたいしてどうとかじゃなくて、、、あの、ソイツ以外とか、俺、無理なんです。」 全くまとまらない頭で、思い付くままに言葉を発する。 目の前で、端正ともよべるほど整った顔が見るまに歪んでいく。 それでも、今、自分が傷つけている相手より。意識をなくしたまま横たわる篠田のほうがずっと気にかかるのだ。 自分が、こんなにひどいやつだとは思わなかった。 自己嫌悪と、タクミを傷つける後ろめたさと。篠田を心配する気持ちがごちゃ混ぜになって、目の前がにじむ。 篠田に恋をしてから、自分は酷く利己的な人間になったと思う。 世界中の誰が不幸になったとしても、篠田が幸せなら、きっと自分は平気なのだ。 もし、不幸になるのが自分だったとしても。篠田が幸せなら、それでいい。 グッと熱いなにかが込み上げてきて、たえきれずに口をつぐむ。 こんな状況でさえ、胸を占めるのは篠田だ。 もし篠田が、このまま目覚めなかったら? 目覚めたとしても、何時かの自分のように俺を好きだと想う気持ちを忘れていたら? そう想像するだけで、冷たい水が心臓に流れ込んできたかのような気持ちになる。
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