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「どうせポケベルがならなければ、暇ですから。朝までここにいてもよいんですよ?」
そうタクミは言ってくれたが、知らなかったとはいえ告白までされた相手と朝まで二人きりというわけにもいかず。
礼をいって、一度、家に帰ることにした。
時計を見ると、すでに3時を回っていた。ここ二週間で、連続して有休をとった身としては、流石に明日は休めない。
眠れはしないだろうが、シャワーでも浴びて気持ちを切り替えてから仕事にいかなければ。
ドアを開けようとした手を取られて、振り向くと思ったより近くにタクミがいた。
見上げるが、少し暗めの照明が背後から光っていて、表情は読めなかった。
「勝手に会わせるわけにはいかないんですけど、当直明けまでに気がつかれたら連絡しますね。」
小さな声で、唇に立てた指をあてながら内緒話でもするかのように囁かれて、うなずいた。
気持ちに答える気もないのに、タクミの優しさに甘えるのはどうかと一瞬まよったが。
それより、篠田が目覚めたらなるべく早く知りたい気持ちのほうが勝ってしまった。
そのまま
「夜の病院は、一人で歩くと色々と怖いですからね。」
といって病院の玄関先まで見送られた。
「、、、お化けとかですか?」
無言になって、気詰まりにならないように気を使ってくれているのだろうと、なるべく明るく茶化すように返した。
「いえ、いえ。お化けよりもっと怖いものが、いっぱいいますから。」
ヒッソリと微笑まれて、不思議に思って顔をあげた途端に、チュッと軽い音をたてて、額にキスをされた。
突然のことに、怒るよりも驚いて。唖然としながらタクミを見上げる。
「例えば、送り狼とか。」
嬉しそうに笑われて、あまりに邪気のない笑顔に、ドッと疲れがわいてくる。
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