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「ところで。
湊君。ご飯食べてないでしょ?」
勢いよく振りかえったタクミが、急に怒ったように眉をしかめて固い声をあげた。
突然の話題変換に唖然としながら頷くと、右腕をひかれて立ち上がらせられる。
「長丁場になるかもなんですから、食事と睡眠はしっかりとらないと、付き添いにドクターストップをかけますよ。
僕、今から夕食なんでつきあっていただきます。」
そういいながら、有無を言わさぬ笑顔で連行されそうになる。
「いや、俺はいいです!
ここで食えるもんで、適当にすませますから!」
篠田の側から放れたくなくて、そう返すとほぼ同時にドアがあいて、原西が現れた。
「病室で大声なんかだして、どうした?」
つかまれたままの俺の腕と、タクミとに目線をながしたあとで不思議そうにたずねられた。
仕事が終わってから、直ぐに駆けつけてくれたのか、持ち運ぶにはいささか大きなボストンバッグをぶら下げている。
「彼がつきっきりで看病をされていて、お食事もとられていないんですよ。
僕も今から夕食なので、一緒にどうかとお誘いしていたんです。」
ニッコリと、邪気なく説明するタクミに原西がなるほどと、納得した顔をした。
「食事の間くらい俺がいてやるから、行ってこいよ。
コイツの目が覚めたら、直ぐに連絡してやるから心配すんな。」
そう笑って、バシンと音をたてて、湊の背中をたたいた。
どうやっても断れない雰囲気に、仕方なく病室を後にする。
だが、死んだように眠ったままの篠田の顔がちらついて、とても食欲などない。
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