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笑顔で見送る原西に、小さくお辞儀をしてから病室を後にする。
院内の食堂で食べるのかとおもっていたが、タクミは迷うことなく病院を後にしてタクシーにのりこんだ。
あまり篠田から離れたくないと戸惑う俺の手を強引に引っ張って座席に座らされる。
「心配しなくても、そんなに遠くにはいきませんよ。
当直医はベルがなったら、15分以内に病室に駆けつけることって、内規があるくらいですからね。
この時間だと売店も閉まってますから。
近場に夜食を食べにいくのは結構あることなんですよ。」
なだめるように笑われて、頷いた。
タクシーは5分ほど走ると、小さな中華屋の前に止まった。
席に着くと頼んでもないのに、次々と食事がだされて、驚く。
「さっき、予約ついでに頼んじゃいました。」
イタズラが成功した子供のように笑われて、強ばっていた身体から小さく力がぬけた。
「ここの中華がゆはお勧めなんですよ~。
あと、こっちの麺もスッパイですけど、意外に癖になってですね~。」
あまり食欲がないからと、断る間もなく。小皿に二人分を器用に取り分けてニッコリと微笑まれた。
顔は笑っているのに、妙な迫力がある。
いらないとは返せずに、渋々と進められた粥を口に含んだ。
その途端、鶏肉と貝からとられた優しい出汁の味が口のなかに広がって、芳しい香りがふんわりと鼻に抜けた。
「、、、旨いです。」
久しぶりに暖かい食べ物が胃とどいて、グゥと身体が空腹を主張した。
「そうでしょう?
ここ、僕のお勧めの中華です。
次は、美味しいハンバーグのお店に連れてきますから。
たのしみにしててくださいね。」
なんでも無いことのように次の約束を口にされて、慌てて首をふった。
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