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高揚した気分を必死に抑えながら自分の席に向かうと、そこにはなぜか牧が座っていた。
机上に置いたペットボトルを両手で持ち、ジッと俺を見つめている。
その口元に、いつものような笑みはない。
その視線に少々居心地の悪さを感じながらも、俺は口を開いた。
「……なんだよ」
牧はその真面目くさった表情のまま俺を見ていたが、やがてニッと悪戯っぽく笑った。
「篠原となに話してたんだ?」
「別に、大したことじゃないって」
改めて報告するのが照れくさくてそう誤魔化すと、牧は「ええっ」と悲しげな声を上げる。
ご丁寧にも、口元に手を当てた大げさなポーズ付きだ。
「もー、そんな風に言われると気になるじゃん。ちょっと、教えなさいよ~」
「なんでカマ口調なんだよ、キモイ」
「ひでぇ!!」
けらけらといつも通りに牧が笑うので、緊張していた気持ちが緩む。
鞄を机に置くと、牧につられるようにして俺も少し笑った。
牧は冗談めかしただけでそれ以上は追及せず、ペットボトルを持つと席を立つ。
そして、すれ違いざまに優しい声色で「良かったな」とだけ言うと、自分の席に戻っていった。
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