第1章

10/12
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
高揚した気分を必死に抑えながら自分の席に向かうと、そこにはなぜか牧が座っていた。 机上に置いたペットボトルを両手で持ち、ジッと俺を見つめている。 その口元に、いつものような笑みはない。 その視線に少々居心地の悪さを感じながらも、俺は口を開いた。 「……なんだよ」 牧はその真面目くさった表情のまま俺を見ていたが、やがてニッと悪戯っぽく笑った。 「篠原となに話してたんだ?」 「別に、大したことじゃないって」 改めて報告するのが照れくさくてそう誤魔化すと、牧は「ええっ」と悲しげな声を上げる。 ご丁寧にも、口元に手を当てた大げさなポーズ付きだ。 「もー、そんな風に言われると気になるじゃん。ちょっと、教えなさいよ~」 「なんでカマ口調なんだよ、キモイ」 「ひでぇ!!」 けらけらといつも通りに牧が笑うので、緊張していた気持ちが緩む。 鞄を机に置くと、牧につられるようにして俺も少し笑った。 牧は冗談めかしただけでそれ以上は追及せず、ペットボトルを持つと席を立つ。 そして、すれ違いざまに優しい声色で「良かったな」とだけ言うと、自分の席に戻っていった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!